「最初の失敗があったからこそ今がある」新人ドライバーの再起

「もう無理かもしれない」
新人時代のある夜、彼は本気でそう思った。
地理はわからない。道を間違えてお客様に怒られた。売上も最低ライン。
──あの頃の自分には、ただ焦りと不安しかなかった。

それでも彼は、辞めなかった。
そして数ヶ月後、同じ営業所の中でも“売上トップクラス”の一人として名前が上がるようになっていた。

今回は、“新人ドライバーの失敗と再起のストーリー”を通じて、
タクシー業界が持つ「やり直せる土壌」や「成長できる環境」を紹介します。

彼──山口さん（仮名）は、前職を半年で退職した30代の男性。
タクシー業界に飛び込んだのは、「手に職をつけたい」「自分のペースで働きたい」という理由からだった。

自動車の運転は好き。接客も嫌いではない。
研修も真面目に受け、「これならいけるかも」と思っていた。

だが、初乗務の日に現実を思い知らされる。
• ナビを頼りに走ったのに、右折禁止の標識を見落としてお客様を遠回りに。
• 渋谷駅前でお客様に怒鳴られ、何も言い返せなかった。
• 休憩のタイミングもわからず、トイレにも行けないまま一日が終わった。

「自分には向いてないかもしれない…」
帰り道、思わず涙が出た。

辞表を出そうか悩んでいたとき、営業所の先輩が声をかけてくれた。

「みんな、最初はそんなもんだよ。むしろ失敗した奴のほうが伸びる」

先輩はこうも続けた。

「この仕事のいいところは、“失敗してもやり直せる”ってこと。
今日の売上がゼロでも、明日はまたチャンスがあるんだよ」

その言葉に、山口さんは少し救われた。
「もう少しだけやってみよう」と思えた。

翌日から山口さんは、営業所の先輩に毎日質問した。
• 「どの時間帯が稼ぎやすいんですか？」
• 「この道、混むんですか？」
• 「トラブルになったとき、どう対応してます？」

すると先輩たちは、思った以上に丁寧に教えてくれた。
中には、営業中の車内で無線を通してアドバイスしてくれる人もいた。

やがて、失敗の回数が減り始めた。
売上も少しずつ上向き、乗客の笑顔も増えていった。

1ヶ月後、山口さんには“自分なりの稼ぎ方”が見えてきた。
• 朝の通勤時間帯は住宅街近くで流す
• 昼は商業施設や病院前を意識して待機
• 夕方はタクシーアプリの通知を優先して動く

時間と場所、アプリの活用、そして乗客の雰囲気を見る力。
積み重ねた経験が、自分だけの“動き方の型”になっていった。

3ヶ月後、山口さんは新人指導を任されるようになった。
かつての自分と同じように、道に迷って焦る新人に、
「俺も最初はめちゃくちゃだったから」と笑って声をかける。

その言葉に、救われた表情をする新人もいる。
自分の失敗が、誰かの役に立つ。
そんな経験は、彼にとって大きな喜びになった。

タクシー業界の最大の魅力は、「結果をリセットできるチャンスが毎日ある」ということ。
前日に失敗しても、次の日にやり直せる。
1週間、1ヶ月と積み重ねれば、確実に成長が目に見える。

そしてもう一つ。
この業界には、“失敗した人を責めない文化”がある。

むしろ失敗した人の方が、後輩から信頼され、
実体験をもとにアドバイスできる“現場の先生”になっていくのだ。

山口さんは、こう語る。

「最初の失敗があったから、今の自分があります。
あのまま順調だったら、きっとすぐ飽きてたと思う。
でも“つまずいた経験”があるから、今は後輩にも言えるんです。
“失敗しても、ここなら大丈夫だよ”って」

タクシー業界には、失敗を受け入れ、そこから成長できる空気があります。

だから、もしあなたが
• 「うまくやれるか不安」
• 「初めての仕事で失敗しそう」
と思っているなら、大丈夫。

最初の失敗は、未来への伏線。
それを経験に変えられる職場が、ここにはあります。