初乗務までの流れが想像より丁寧だった

タクシー業界への転職を考えたとき、最初にぶつかるのが
「本当に未経験でもできるのか？」
「道を知らなくても大丈夫？」
「いきなりお客さんを乗せるのは怖い…」
といった、漠然とした不安です。

特にこれまで接客業や運転業務とは無縁だった人にとっては、
“車に乗って営業所を出た瞬間から一人で仕事が始まる”というイメージを持たれていることも少なくありません。

ですが、実際の現場はその想像とはまったく違います。
むしろタクシー会社の多くは、未経験者を前提とした研修・教育フローを体系的に整えているのです。
今回は「初乗務」までの流れを、実際のタクシー会社の例をもとに、できるだけリアルに紹介していきます。

タクシー業務を行うには、普通自動車免許だけでは足りません。
業務として乗客を運ぶには、「普通自動車第二種免許（通称：二種免許）」が必須です。

ただし、二種免許の取得には特別な手続きが必要というより、提携教習所を通じて約8日〜10日間で取得できるよう、ほとんどのタクシー会社がフルサポート体制を整えています。

しかも、多くの企業ではこの期間の費用を「全額会社負担」にしているほか、取得中も「日当（研修手当）」が支給されるケースもあります。
つまり、経済的リスクを負わずにステップを進められる仕組みが用意されているのです。

二種免許を取得すると、いよいよ会社内での本格的な研修がスタートします。
この段階でまず行われるのが、タクシー業務に必要な基本的知識を習得するための「座学研修」です。

内容は以下のようなものが中心です：
• 道路運送法・旅客自動車運送事業法などの法令知識
• メーター操作や日報の書き方
• お客様への言葉遣いや接遇マナー
• 事故防止のためのヒヤリハット研修
• 配車アプリ（GO/Uber/DiDiなど）の使い方

この座学だけでも3〜5日ほどかけて行われることが多く、「ただ免許を持っていればいい」という世界ではないことがわかるはずです。
実際、多くのタクシー会社では“接客業であること”を強調しており、技術や運転よりも「お客様への対応力」が重視される傾向にあります。

「座学はいいけど、実際にお客さんを乗せるのは怖い」
そんな声に応えるのが、“添乗指導”と呼ばれる同乗型の実地研修です。

ベテランの乗務員や研修担当者が助手席に乗り、
実際の運転ルートや配車アプリの操作方法を現場でひとつずつ指導してくれます。

この期間中はもちろんお客様を乗せることはなく、架空配車やシュミレーション走行でじっくりと不安を潰していくスタイルです。
どの道を使えば効率的か、どう声をかければ印象が良くなるかなど、地図やマニュアルだけでは学べない「現場のコツ」が身に付く貴重な期間です。

添乗研修の期間は会社によって異なりますが、一般的に3〜7日間程度。
「まだ不安がある」と自己申告すれば、研修期間を延ばすことも可能な企業が増えています。

添乗研修を経て、いよいよ「初めての本番乗務」となるわけですが、
ここでも多くの会社は**“段階的なデビュー”**を取り入れています。

たとえば：
• 初日は短時間の勤務にして負担を軽減
• アプリ配車だけに絞って流し営業は行わない
• 常に無線・電話で営業所と連絡が取れる状態をキープ
• 必ず営業終了後にフィードバック面談を実施

など、いきなりすべてを任せるのではなく、“慣れるための時間”がしっかりと確保されているのです。

また、最近では新人専用の「サポート班」や「研修部署」が常設されている会社もあり、「一人じゃない」という安心感のなかで仕事に慣れていける仕組みがあります。

これまでの社会経験で「仕事は見て覚えろ」「いきなり任されて困った」
そんな体験をしてきた人にとって、タクシー業界の研修フローはある種の“驚き”かもしれません。

ですが、業界全体として**「未経験者が活躍してこそ会社が成長できる」**という意識が高まっている今、
「育成の仕組み」は着実に進化しています。

とくにアプリ配車全盛の時代、
「道を知らない＝不利」ではなく、「接客が丁寧な人ほど指名されやすい」構図に変わりつつあります。

求人広告では見えにくい、初乗務までの流れ。
でも実際には、タクシー会社の多くが「育てる体制」に本気で取り組んでいるのです。

もちろん会社ごとに特色はありますが、共通しているのは、
**「不安なままひとりで路上に出すようなことはしない」**という安心設計があること。

最初の一歩に迷っている人ほど、
この「丁寧な流れ」がきっと大きな安心材料になるはずです。